NPO法人 日本健康住宅協会 トップページへ 地図・連絡先 入会案内 お問い合わせ サイトマップ
コラム
 <2005年51号(冬号)>
「聴竹居」
健康住宅アドバイザー 前田 由利(YURI DESIGN代表)
「聴竹居」は、大阪と京都の境、山崎にあり、1928年、建築家藤井厚二が設計し、49歳でなくなるまでの10年間生活をした自邸です。
藤井厚二は、1888年広島県福山市で代々続く「くろがねや」という造り酒屋の出身で、1913年東京帝国大学建築学科を卒業後竹中工務店へ入店。1919年ドイツへ遊学後、1921年から京都帝国大学建築学科助教授として就任。その傍ら、「最も現代に適する住宅」を追求し、1万坪という「山崎駅裏」の実験地で住宅を作り、5棟目の住宅が「聴竹居」です。
現在この住まい手である、高橋功さんの案内で、約1時間見学をさせていただきました。
見学できるのは玄関・ホール・客室・食堂・居間・縁側・たたみ室、と建物全体の約1/3で、寝室やトイレなどはプライベートに使用されているため見ることはできませんが、それでも見ごたえは十分ありました。
和洋折衷の設計の中に、現代的なアイデアが盛り込まれています。
自然の風景を満喫すること。夏に通気を良くし、涼しく暮らせること。豊かな生活シーンを細やかにデザインしていること、など。

まず、アプローチは雑木林の中を石段が柔らかなカーブを描きながら進むと自然に玄関の前にでます。玄関ドアは「人を招き入れる」内開き。笠を立てるコーナーや、収納する箱、帽子をかけるフックまであります。
左手の客室は、中央にテーブルが置かれた正方形の間で、いすに合わせて高さのある床の間があり、そこに置かれているつぼは藤井氏の作品。奥には鶴の形の香炉が飛んでいて楽しいしつらえです。窓辺にはベンチとレコード収納があり、桟の配置の美しいガラス障子越しに庭の風景が楽しめます。
玄関を入った正面は居間で、奥に3畳のたたみ間があり、ここは客を迎える主人の場であると同時にお茶道具を広げるスペースとなりました。また、仏壇が隠し扉の中に納まっています。この下に、クールチューブの出口があって、夏の冷風を取り入れます。
南の縁側は、3方ガラスで出来ており、柱が見当たりません。林の中にいるような気持ちの良い場所で、天井には、換気小窓もあります。建具は性の良い木で作られ、細かに防風しゃくりがされていて気密性を上げています。
玄関の北側には食堂があります。居間から1段上がったところにアーチのたれ壁をくぐって入るデザインで、ベンチと両面ハッチの家具があります。
全ての部屋の照明器具は、デザインされ、天井付のシーリングライトとしては、最も古いものだといえます。

吟味された建材を選び、仕事も精密で、何より設計者がいろいろな夢を持って設計したなら、76年の年月を経てもなお、色あせない現役の住宅であり続けることができる、そのことを実感した1日でした。
見学日:2004年10月26日
<コラム>
BACK NUMBER
<2009年4月17日>
<2005年51号(冬号)>
<2004年50号(秋号)>
<2004年49号(夏号)>
<2004年48号(春号)>
<2004年47号(冬号)>
<2003年46号(秋号)>
<2003年45号(夏号)>
<2003年44号(春号)>
<2003年43号(冬号)>
<2002年42号(秋号)>